造影検査のルートキープはどうして右腕なの?左腕だと何がダメなの?

学生、新人技師に向けて

造影前のルートキープはほとんど右腕

CTやMRIの造影検査では、正確な診断のために造影剤を使用することが一般的です。

その際、造影剤を体内に注入するためにルートキープを行いますが、医療現場ではほとんどの場合、右腕が選ばれることが多いです。

なぜ右腕が推奨され、左腕ではいけないのか?また左腕を選ぶべきケースについて解説します。

ルートキープはなぜ右腕が多いのか?左腕ではいけないのか?

造影検査では、右腕でのルートキープが一般的ですが、なぜ右腕が選ばれるのでしょうか?

また、左腕に変更しなければならないケースについても気になるところです。

新人技師や準備を担当するスタッフが、この疑問を抱えることは少なくありません。

ですがご安心ください!!この記事を読むことで、

  • ルートキープで右腕が多い理由
  • 左腕でルートキープするケース

これらの疑問を解消することができるでしょう!!

なお、次のステップで行う造影検査の基礎についてはこちらの記事をご覧ください!

施設のルールを遵守することが最優先!

まず、各施設には独自のプロトコルがあります。

そのため、どの施設でも共通する基本的な考え方はありますが、必ず各施設のプロトコルや規定に従うことを最優先としてください。

本記事では、一般的な理由とケースを紹介しますが、施設ごとのルールに従って実施するようにしましょう!

右腕でルートキープが推奨される理由

右腕がルートキープに推奨される最大の理由は、大きく分けて3つあります。

  • 右腕の解剖学的優位性
  • 造影剤の到達時間の遅延
  • 造影剤のアーチファクト

一つずつ見ていきましょう!

右腕の解剖学的優位性

血管の解剖学的な構造によって右腕がルートキープに最適だとされています。

右腕の静脈の走行は、造影剤を効率的に全身に行き渡らせるために理想的な経路を持っています。

具体的には、右正中静脈から尺骨皮静脈、鎖骨下静脈、腕頭静脈、中心静脈という流れで、造影剤がスムーズに心臓や全身に運ばれます。

右側の腕頭静脈には、外頚静脈や内頚静脈がつながっていますが、右側では腕頭静脈のアーチ状の角度が左側より急です。

そのため、造影剤を投与しても外頚静脈や内頚静脈への逆流が起きにくい構造になっています。(上記解剖画像参照)

これにより、造影剤が効率的に中心静脈まで届き、正確な検査結果を得ることができます。

造影剤の到達時間の遅延

左肘静脈から投与すると、右側に比べて心臓までの距離が長くなるため、造影剤が全身に行き渡るまでに時間がかかることがあります。

この遅延により、検査結果が影響を受ける可能性があります。

撮影タイミングがシビアになるほど、左腕でルートキープしたことによる影響は大きくなるといえるでしょう。

造影剤のアーチファクト

左腕からの注入では、静脈内に滞留した造影剤がアーチファクトを引き起こし、画像のノイズや動脈の描出が妨げられることがあります。

特に3D画像作成時に骨との分離が困難になる場合もあります。

CTAの3D画像を作成したことのある技師には理解していただけるはずです。(笑)

+α:末梢からの造影剤注入の影響

造影剤を肘静脈ではなく、手背や足など末梢の静脈から注入することは避けるべきとされています。

これは、末梢部からの注入では造影剤が目的とする血管に到達するまでに効果が減少し、十分な量の造影剤が目的の血管に届かなくなる恐れがあるからです。

これにより、適切な血管描出が困難になり、検査の精度が低下する可能性があります。

左腕でルートキープを行う場合の考慮事項

右腕がルートキープに推奨される理由を理解していただけたことでしょう。

しかしながら、現場で働いている医療従事者の皆様はこう思ったはずです。

左でルートキープすることもあるけど、、、?

続いてご紹介するのは、左腕でルートキープを行うケースです。

代表的な事例として、いくつかの重要な考慮事項があります。

  • 麻痺がある場合
  • 乳病切除術後
  • 急変時
  • 目的血管の撮影に関係する時

以下のような状態に患者があるときは、右腕ではなく左腕でルートキープすることもあります。

麻痺がある場合

脳梗塞などの後遺症で身体に麻痺が残る患者に対しても造影検査をすることがあります。

麻痺のある側は血流が悪く、血管が細くなり、血管壁が薄くなる傾向があります。

このため、麻痺側の腕を選ぶことは危険です。

もし、血管外に造影剤が漏れた場合、患者さん自身が異常を察知できないため、組織損傷のリスクが高まります。

これらの理由から、麻痺側はできる限り避ける必要があります。

乳房切除術後

乳房切除を受けた患者さんの場合、手術部位への刺激を避けることが重要です。

患側の腕に穿刺を行うと、リンパ液の流れが悪化し、リンパ浮腫や感染のリスクが高まります。

中には、「手術を受けたのは10年以上前で、採血や点滴は行っても良いと言われています」とおっしゃる患者さんもいますが、その場合でも担当医に状況を説明し、適切な判断を仰ぐことが重要です。

きんちゃんの病院では、撮影のための着替えや造影検査の同意書は放射線技師が取得するのですが、その際に右腕でルートをとることを説明します。

その際に、乳がんによる乳房切除術を右腕で行っている場合は、看護師と情報共有して、左腕でルートキープしてもらうようにしています。

急変時の対応

患者さんが急変した場合、救命を最優先とし、やむを得ず患側の左腕に穿刺することもあります。

このようなケースでは、急変対応を終えた後に、腕のむくみ具合をチェックし、患者さんが意識があれば違和感の有無を確認する必要があります。

また、できるだけ早く別のルートで取り直せるかどうか検討することが求められます。

迅速な対応が患者の安全に寄与するため、医療従事者として常に状況を把握しておくことが重要です。

目的血管の撮影に関係する時

ある患者の頭頚部CTA時の検査目的で、このような記載がありました。

頭蓋内から頚部血管の精査、右鎖骨下動脈狭窄疑い

さて、どちらの腕でルートキープするのが適切でしょうか?

正解は左腕です。

身体の解剖学的に考えると右腕でのルートキープが基本ですが、精査目的血管は右鎖骨下動脈です。

右肘静脈から注入した場合の造影剤は、心臓から頚部、頭と流れていきますが、右鎖骨下動脈に流入する際には右腕頭静脈内に造影剤が残っていることが考えられます。

実際に撮影している画像を見ると分かるのですが、静脈を流れる造影剤からのアーチファクトで動脈がほとんど観察できません(笑)

こうなってはCTAで血管の精査をする意味が全くないので、それを防ぐために目的血管によって左腕に変更する場合があります。

まとめ

CTやMRIの造影検査において、ルートキープを右腕で行う理由には解剖学的な理由が大きく関わっています。

右腕の静脈の走行は、左側よりもアーチが急であるため、造影剤の逆流や血管内での滞留リスクが低く、より正確な造影結果を得ることができます。

また、造影剤の到達時間の遅延やアーチファクトによる影響を最小限に抑えるため、右肘静脈が推奨されることが多いです。

一方で、左腕でルートキープを行う必要がある場合もあります。

麻痺や乳房切除など患者の個別の状態を考慮しなければならないケースでは、慎重な判断が求められます。

左腕でのルートキープは、解剖学的な構造により目的血管の近くを流れる静脈内の造影剤が原因となるアーチファクトを防ぐためにも注意が必要です。

どちらの腕を選択するにせよ、施設の規定や患者の個々の状況を十分に考慮し、安全で効果的なルート確保を行うことが重要です。

最終的には、医療従事者として状況に応じた最適な判断が求められます。

検査目的を把握するためには、常に事前予習することが大事ですね!

ではまた

参考記事:https://www.kango-roo.com/learning/8954/

バイエル画像検査室

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