“腹痛の影に潜む危機”を見抜けるようになりたい

腹痛で搬送される患者のCT検査。日々の撮影の中で、あなたが最初に異常に気づく存在かもしれません。
単純CTでは分からなくとも、造影検査に移行した際に気づけるような所見はたくさんあります。この記事では、上腸間膜動脈(SMA)に着目した症例やCT画像所見をまとめました。
SMAの異常は腸管虚血を引き起こし、発見の遅れが致命的な結果を招くこともあります。ちなみに、上腸間膜動脈ってどこ??と思った方は今すぐ画像診断cafeで検索してください!!
緊急所見を探さないと!でも異常があるような、ないような…

救急症例や急性腹症の撮影を担当していると、「腹痛」で搬送されてきた患者さんのCTを撮る機会は多くあります。しかし、その画像の中に、命にかかわる重大な血管病変が隠れていることも…
先ほど述べた通り、上腸間膜動脈(以後SMA)は人体において非常に重要な役割を担っているため、SMAの異常所見は知ってるだけ知ってた方が絶対良いです。
でも、正直こんな悩みありませんか?
また、1年目技師や当直に入りたてだったりする場合はさらにこんな悩みも、、、
この記事では、そんな不安を抱える診療放射線技師の方に向けて、SMAに関係する代表的な病態とそのCT所見、見落とさないためのコツをご紹介します。技師歴5年目のきんちゃんと一緒に、基本から確認していきましょう!!
なお、この記事では参考文献としてこちらの参考書に記載されている内容を一部引用しています。
研修医向けの内容ですが、内容は分かりやすく実際の画像も多く記載されているので気になる方はぜひご覧ください!
上腸間膜動脈の3つの代表的な病態とCT所見

SMAの重要な所見を抜粋して3つ紹介します!
- SMA解離
- SMA血栓・塞栓
- NOMI
SMAは、造影検査をすることで見やすくなりますので、これら3つの所見を疑う場合はもちろん、偶発的に見つかることもあります。命にかかわる病気もあるため腹部造影CT検査を行うときは、SMAの染まり具合を確認する癖をつけましょう!
それではここから、一つずつ詳しく見ていきます。
SMA解離

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/32725
大動脈解離と同じように、SMA解離では真空と偽腔に分かれている様子を確認することができます。大動脈解離は見慣れている方も多いかもしれませんが、どこまで解離が広がっているかまできちんと確認していますか?
SMAは広範囲の腸管に血液を送っている重要な血管なので、SMA解離によって血流が途絶えていないかをしっかり確認することが大事です!血流が十分でないと、腸管虚血を起こしてしまいますからね!
男性に多いといわれていますが、無症状で偶発的に見つかることも多いです。強烈な背部痛を生じる大動脈解離とは大きく異なりますね。ただし、急性SMA解離の場合は突発的な腹痛や腹部膨満を認めます。
食後に腸管運動を活発にするために血液が増加したことで痛みが生じるケースもあるそうです。

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/32725
axial以外の断面でも、SMAに着目することで解離が起こっているかの判別が可能です。SMV(上腸間膜静脈)まで染まっている平衡相ですが、静脈に造影効果があるのに動脈が全く染まっていないのはおかしいですよね。
染まっていない範囲の形状から、偽腔と真空に分かれてしまっているSMA解離だと予測することができるはずです!
- SMA内に「intimal flap(内膜弁)」が見られる(二重腔構造)
- 突発的な腹痛や腹部膨満が食後に発生している
- SMAの造影効果の有無をチェック
SMA血栓・塞栓症

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
SMAにできた血栓、あるいは他の場所で出来た血栓が飛んできてSMAに詰まる塞栓で造影欠損が見られますね。SMA解離と発生機序が異なり、心房細動などの不整脈が原因と考えられることが多いです。
そもそもSMA血栓症とSMA塞栓症の違いを皆さんはご存じですか?それは詰まる直接の要因である物質がその場所で出来たか(血栓症)、他の場所で出来て血流にのって運ばれてきたか(塞栓症)、です。
SMA血栓症とSMA塞栓症の違い
SMA血栓症とSMA塞栓症の違いを表とイラストで以下にまとめました。

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
SMA血栓症

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
SMA血栓症の主な原因は動脈硬化です。SMAの分岐部を中心に徐々に細くなって閉塞して、上腸間膜動脈閉塞症を起こします。動脈硬化のほか、動脈瘤や大動脈解離も原因となります。
また、血栓症によってSMAが詰まる部位は、起始部に多いとされます。太い大動脈からの分岐部しであるSMA起始部に血管内のプラークが溜まりやすいことが考えられますね。
SMA塞栓症

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
他の箇所から血栓が飛んできてSMAに詰まった場合はSMA塞栓症になります。心房細動の既往を持つ人が、心臓の左心耳などで血栓を形成してしまいがちです。他にも、弁膜症や心筋梗塞の壁在血栓、時に大動脈プラークの破綻が上腸間膜動脈を塞栓する塞栓子の原因となります。
脳梗塞の場合も心原性のものがあるので、血栓が飛びやすい人は健常者と比べてはるかにリスクが高そうですね、、、
血流にのった塞栓子は、SMAに詰まるときに起始部から3~8cmの位置にあることが多いです。塞栓子の大きさによってある程度SMA内を進むことができるから、というイメージが一番わかりやすいでしょう。
以下に、血栓症と塞栓症の違いを表にしてまとめました。

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
SMA血栓症、塞栓症の症状
急激な腹痛で発症することが多いですが、この病気に特徴的な症状はなく、非特異的で嘔気・嘔吐、下痢、腹部膨満、下血なども見られます。
ただし、不整脈の既往歴を持つ人の臍周囲から腹部全体に広がる激痛を認めた場合、鎮痛薬が無効な場合は、この病気の可能性があり、除外するために、造影剤を用いたダイナミックCTを撮影する必要があります。
つまり、腹痛の患者が来たらまずはこの病気を疑うことが非常に重要だということです。日常の体幹部CT撮影でもSMAは意識してみるようにしましょう!
SMAが閉塞したことを示唆するCT画像所見

SMAが閉塞したことを示すCT所見として、代表的なものをいくつか挙げてみました。
- 血栓が見られる場合は単純CTで高吸収
- 上腸間膜動脈の造影欠損像
- smaller SMV sign
SMAの閉塞が生じた際の症状は、嘔気・嘔吐、下痢、腹部膨満、下血などでしたね。そのような症状を訴える患者が来院した際は、まず間違いなく体幹部CTを撮影します。
血栓がSMAに無いかを頭の片隅に入れた状態で画像を観察してみましょう。腹部大動脈からSMAに分岐したところで高吸収になっている所見を見つけたらすぐに当直医に連絡して造影CTの提案をするとグッドです👍
造影CTを行えば、SMA閉塞の有無は一目瞭然ですね!動脈相にて、欠損像が無いかしっかり確認しましょう!
smaller SMV signってなに?
本来SMV径>SMA径なのですが、これが逆転してしまうことがあります。これを、smaller SMV signといいます。
上腸間膜動脈(SMA)が詰まると、腸管に行く血流が途絶えます。
→すると、腸管から帰ってくる血流も当然減ります。
→すると、静脈(上腸間膜静脈(SMV))が本来よりも細くなります。
一方で動脈は硬い壁で構成されていますので、血管の太さは変わりません。
結果、本来SMV径>SMA径なのですが、これが逆転してしまうことがあります。
ちなみにSMVとSMAの正常の大きさの関係はこちら。

SMVの方がSMAより本来は大きいことがわかります。
一部引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15402
NOMI(非閉塞性腸管虚血)

3つ目に紹介する「NOMI」は今回のテーマからしたら番外編的な扱いになります。まずはNOMIの定義から確認しましょう。
NOMIの定義:腸間膜動静脈に狭窄や閉塞が認められない腸管虚血
SMAに血管に狭窄や閉塞があれば、栄養する腸管に虚血が起こることは容易に想像できますが、狭窄や閉塞がないにもかかわらず、腸管虚血が起こってしまうのがこのNOMIです。
SMAが狭窄、閉塞するわけではなく、血管の攣縮(れんしゅく)が起こると推測されています。
NOMIの原因・リスクは?

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5672
上記画像は、NOMIの発生機序を表したイメージです。脳や心臓のような優先順位の高い重要臓器への血流確保を優先した結果、腸管への血流などそれ以外の血管(特に末梢血管)が攣縮します。
重篤な基礎疾患を持つ人に多いとされています。
- うっ血性心不全
- 心筋梗塞
- 肝・腎障害
- 体外循環使用
- ショック状態
- 敗血症
- 脱水状態
- 透析や心臓・腹部術後による血圧低下
- 血管作用薬使用(ジギタリス、αアドレナリン作動物質、バゾプレッシン)
- 高齢者である
NOMIの症状は?
NOMIは早期には特異的な症状が認められない事が多く、20-30%では腹痛の訴えさえもないと言われています。
進行すると、腹部全体あるいは腹部のいかなる部位にも疼痛を認めるようになりますが、にもかかわらず、視診や触診では所見がないことがあります。
NOMIの診断は?
診断のGold standardは血管造影で、腸管膜動脈末梢が攣縮状に狭小化して描出されないことを確認します。
症状から見ても、特徴的なものがない(なんなら無症候性の場合も少なくない)ことから

NOMIと疑わなければ診断がつかないよね~
とさえ医師に言わせる始末。やはり医療業界では、知識武装が吉ということですね。
NOMIのCT画像所見

いろいろなサイトをはしごして必死に探しましたが、「これがNOMIの典型」と呼ばれるような所見はないようです、、、
そのため、除外診断という形でNOMIと結論付けることが多いようです。体幹部CT検査(造影検査も含む)を行って、以下の所見が無いかを確認します。
いずれの所見もない場合にNOMIがようやく候補に挙がってくるようです。
smaller SMV signの意義は大きい
SMA血栓・塞栓症の所見でsmaller SMV signを紹介しました。NOMIと診断された患者の所見でもsmaller SMV signが確認されるケースが多いです。
ただし、この所見はNOMIに特異的ではなく、SMA領域の血流障害が起これば生じる可能性があるため、絞扼性腸閉塞や高齢者の場合、脱水でも見られることがあります。
それでも、smaller SMV signがNOMIの診断のアシストをすることは多いようです。

画像引用:https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5672
上記画像は、90歳代女性で主訴:腹痛の患者のCT画像です。
広範な小腸壁肥厚、腸間膜脂肪織濃度上昇を認めています。SMAに明らかな狭窄や血栓などは認めず、Smaller SMV signを認めています。
NOMIと診断されました。
まとめ:腹痛なら、SMAの観察を忘れないで!

腹痛で搬送される患者の中には、命にかかわる重大な血管異常が潜んでいることがあります。この記事では、腹痛で搬送されてきた患者のCT撮影でSMAへの着目をメインテーマで記事を書かせていただきました。
- 血栓が高吸収で描出されていないか?
- 解離、造影欠損像はあるか?
- smaller SMV signは確認できるか?
- NOMIの可能性はあるか?
上腸間膜動脈(SMA)の異常所見を理解し、適切に画像診断できる力は、救命に直結する非常に重要なスキルです。日々の撮影で「異常に気づける技師」になるために、SMAを意識して観察する習慣をつけましょう!
あなたの一枚のCTが、患者さんの未来を救うかもしれませんね👍
他にも放射線技師に役立つ知識や、裏事情なども多数執筆していますのでぜひ他の記事も併せてご覧ください!!
ではまた
コメント