はじめに:MRI検査の重要性と安全性について
画像引用:https://grapee.jp/312030/2
MRI(磁気共鳴画像法)は、放射線を使用せずに高精度な画像を取得できる検査手段として、医療現場で欠かせない存在となっています。
しかし、MRI装置は強力な磁石を使用しているため、検査を行う前に守るべき重要な注意点がいくつかあります。
本記事では、MRI業務に携わり始めた技師やMRIに興味がある学生向けに、検査を安全に進めるための注意事項を詳しく解説していきます。
MRI業務に担当し始めた技師や、勉強中の学生はMRIを学ぶならまず最初に読んでほしい記事です!
この記事を読むと分かること
忙しい人に向けて、この記事で学べることをまとめました。
MRI検査を担当する際に、自分たちの身だしなみや検査を受ける患者の服装について、細かくチェックをすることができるようになるでしょう。
これであなたも、磁性体の持ち込みを防ぐことができます!
MRIの基本原理:磁力を用いた画像撮影技術
まず、MRI装置がどのようにして画像を取得しているかを理解することが重要です。
MRIは、強力な磁石と高周波電波の力を使って体内の水分や脂肪を撮影し、臓器や組織の詳細な画像を得る機械です。
このため、MRI室内に持ち込むものには非常に厳しい制限があります。
強力な磁石から発生する磁場は当然強力なので、金属理や機械類の持ち込みは厳禁です。
磁性体を持ち込んだ暁には、厳正な指導が入るでしょう、、、
磁性体とは??
磁性体は、金属の中でも磁性の特性によって異なり、大きく分けて3つに大別されます。
医療現場で身近な磁性体と言えば、ハサミや車いす、ストレッチャー、ピッチ(phs)が挙げられますね。
静磁場が強磁性体に及ぼす影響は、吸引力(並進力、トルク)です。
強力な吸引力により、磁性体が体内に存在する場合は体内で回転や移動を引き起こすことにより、体内器官に損傷を引き起こす可能性があります。
磁性体が外にある場合でも、MRIマグネットへの飛行経路に人体が存在する場合は、体外的損傷を受けます。
MRIの種類は大きく分けて3つある
MRIは、常に磁場を発生しているものと、通電中のみ磁場を発生しているものがあります。
超伝導装置と永久磁石装置が前者であり、常伝導装置は後者にあたります。
超伝導装置
超伝導装置は、非常に強力で安定した磁場を生成するために超伝導磁石を使用しています。
超伝導磁石は液体ヘリウムで冷却され、抵抗をゼロにして強力な磁場を維持します。
これにより、高精度な画像を取得できるため、多くの医療施設で使用されていますが、強力な磁場を安定して供給できる反面、装置の維持費や冷却費用が高いのが特徴です。
永久磁石装置
永久磁石装置は、自然に磁場を発生する永久磁石を使用しており、電力を必要としません。
このため、コストが抑えられ、小型で省エネルギーな特徴があります。
ただし、磁場の強さは超伝導装置に比べて弱いため、画質がやや劣る場合があり、狭い空間での設置や、低コストでの運用が求められる場合に選ばれることが多いです。
常伝導装置
常伝導装置は、電流を流すことによって磁場を発生させる電磁石を使用した装置です。
このタイプは比較的磁場が弱く、超伝導装置ほどの高解像度の画像は得られませんが、比較的簡単に設置でき、運用コストも抑えられます。
永久磁石装置と同様に、設置スペースが限られている環境などで使用されることがあります。
MRI検査をするにあたって必須の確認をしよう!
MRI検査で避けて通れないのが、「磁性体を身に付けていないか?」のチェックです。
この確認は、通常検査時だけでなく緊急検査時も同様のことが言えます。
MRI室いろいろな人が出入りする
また、放射線技師含め他の医療従事者がMRI室に入室する際は、その人たちが磁性体を身に付けていないかの確認が絶対に必要です!!
放射線技師
画像引用:https://www.cinematoday.jp/news/N0137674#google_vignette
まずは、我々放射線技師についてです。
前提として、可能な限り金属類を身に付けないようにする必要があります。
特に、腕時計や磁気カード、磁気ディスク、ポケットベル、携帯電話などは磁化されて使用できなくなります。
また、ポケットに入れているペン類やハサミ、クリップや名札の金具も外れてマグネットに向かって飛んでいくので、あらかじめ外しておくのが無難です。
放射線技師以外の医療従事者
特に注意を促す必要があるのが、放射線技師以外の医療従事者(医師や看護師など)です。
放射線技師は随時入室するため注意が払われていることが多いですが、一時的に入室する他の医療従事者はMRIの特性を十分に理解していないことが多いです。
(大きな音を出しながら写真が撮れる機械、程度にしか思われていないこともしばしば、、、)
ポケットに入れているペン類やハサミなどの器具、院内phsはもちろん、女性の場合はヘアピンやピアス、ネックレスなどのアクセサリー類も入室時は必ず外すように指示する必要があります。
放射線技師以外の医療従事者に対してもMRIの安全管理講習についての研修をするなどして、磁性体の持ち込みを減らすような事前対策を講じると良いでしょう。
一般患者(自力歩行可能)
患者のチェックも事故を防止するために、二重三重のチェックをするべきです。
きんちゃんの病院では、患者自身のチェックリスト記入によるチェックと放射線技師による入室前のチェックで、二重の確認を行っています。
患者が身に付けているものは多種多様なので、施設によって全身着替えてから入室することも多いようですね。
時計や眼鏡、ベルトなどの金具はもちろん、先にも挙げたヘアピンやネックレスなどのアクセサリー類、加えて女性の場合は下着の金具(ブラジャーのホックやアジャスター)も場合によっては引っ張られるので外していただくようにしましょう!
(下着はずらすだけで良い?などとよく聞かれますが、まったく意味がないのでしっかり外してもらいましょう)
加えて、高齢者の場合は、補聴器や入れ歯などしているケースが多いです。
それらをMRI室に持ち込んだことで、万が一損傷した場合は、どえらいことになります。
必ず最初に聞く+目視で直接確認するなどして、見落としの内容にしましょう!
手術歴の確認はマスト!!
個人的にですが、もっとも慎重になるのは手術歴の有無です!
体内に金属を埋め込むような手術をしていないか明確にしておく必要があります。
代表的なものとして以下のようなものが挙げられます。
金属があるかもしれない、MRI対応の物か不確定である、という際は、事前にX線撮影により確認すべきです。
(例:リードレスペースメーカを埋めた可能性がある患者に胸写を実施する。)
他院で手術したもので、MRI対応か不明の際は、手術をした病院に確認してもらうのもありですよ。
補助が必要な患者(車いす、杖歩行、ストレッチャーなど)
患者のチェックで、特に気を付けたいのが介助や補助の必要な患者です。
入院患者は自由に動けない人が多いので、検査室まで独歩で来れることはあまりないです。
また、点滴投与中であれば、点滴台を押しながら来るでしょう。
杖歩行、車いす、ストレッチャーでの移動を要する患者については、MRI室対応の車いすやストレッチャーへの移乗が必要です。
さらに、MRI対応のストレッチャーでも、下段に酸素ボンベや磁性体の医療器具が載っていないか十分に確認しましょう。
きんちゃんが実際に経験した過去の体験談ですが、MRI対応のストレッチャーに、MRI非対応の点滴台がついていた時が一番ひやひやしましたね、、、(笑)
職員以外の人物(修理業者、メーカーなど)
MRI室の点検や清掃などで、医療従事者ではない職員や院外の業者が来ることもしばしばあります。
MRIに精通しているメーカースタッフはまだしも、電球を交換に来たような一般職員がうっかりMRI室に磁性体の脚立を持ち込んだ日には、、、
想像するだけで恐ろしいですね、何としても予防策を講じておくべきでしょう。
業者が作業している間は放射線技師がその場で立ち会うとか、MRI室に入室できないように立札を置いておくとか、病院ごとに対策はいろいろされていると思います。
MRIと人体への影響:安全性と注意点について
一般的にMRIは非侵襲的な検査といわれますが、これはMRIが電離放射線を使わないことを意味するものだからです。
実際には、人体に全く影響がないというのは語弊があります。
MRI検査において人体に及ぼす影響は大きく分けて4つあります。
患者からこのような疑問を投げかけられることもあるでしょう。
MRIは放射線を使わないから、体に害はないですよね?
このときに迷わず答えられるように、しっかり準備しておきましょう!
静磁場による影響
生体内の水、例えば血液、脳脊髄液、細胞内外の水が、水の反磁性により並進力を受けるモーゼ効果や、血液凝固に関するフィブリンの磁場配向現象を受ける影響が考えられています。
そのほかにも、遺伝子レベル、生体内化学反応レベルでも生体作用の影響の可能性があります。
ただ、現状においては不明なところが多く、現在日本で臨床使用が認められている1.5Tの装置では、静磁場による影響は皆無とされています。
高周波パルスによる影響
高周波パルスの照射による最も主要な影響は発熱作用です。
高周波による発熱作用はSAR(specific absorption rate)で示され、MRIによるSARは以下の表で示すように規制されています。
平均時間 | 6 min | |||
全身SAR | 身体部分SAR | 頭部SAR | ||
身体領域 | 全身 | 照射を受ける身体部分 | 頭部 | |
操作モード | 通常操作 | 2 | 2~10 a) | 3.2 |
第一次水準管理 | 4 | 4~10 a | 3.2 | |
第二次水準管理 | >4 | >(4~10) a) | >3.2 |
発熱作用を特に受けやすい特徴として「入れ墨」をしていることが挙げられます。
検査をすること自体は可能ですが、火傷症状を引き起こすリスクが高いです。
入れ墨をしていることが判明した時点で、医師と相談することが大事ですね。
傾斜磁場変動による影響
画像引用:https://hario-science.com/magnetic-field/
MRIの撮像には傾斜磁場の高速なスイッチングが必要です。
この傾斜磁場変動から、人体への神経刺激と騒音の問題が発生します。
急速な傾斜磁場変動はファラデーの法則に従い電圧と渦電流を誘発し、これらの誘発電流は人体内で心細動、心筋、末梢神経及び末梢神経筋の刺激を誘発する可能性があります。
特に、EPI(echo planning imaging)を代表する最近の撮像法を使用するためには、高い傾斜磁場と早い立ち上がり時間が必要になり、注意が必要です。
騒音による影響
騒音による人体の影響としては、一時的な聴力低下が挙げられます。
現在国際的に容認されているピーク音圧レベルの上限値は140dBであり、現状のMRI装置ではその音圧レベルを超えることはほぼありません。
しかし、患者の嫌悪感などを考えるのであれば、耳栓やヘッドホンの使用を検討すべきですね。
まとめ:安全なMRI検査を行うための基本事項
MRI検査を始める前には、技師や患者が守るべきさまざまな注意事項があります。
金属を持ち込まないことや、専用器具の使用、安全な服装の選択など、細部にわたる確認が不可欠です。
また、人体への安全性に関しても、適切な手順を守ることで安心して検査を行うことができます。
これらの点を徹底することが、MRIを担当する技師としてまず身に付けるべきスキルではないでしょうか?
この記事で学んだことをぜひ胸にとどめつつMRI業務に従事して事故を防いでいただければ本望です。
ではまた
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